<モデルチェンジサイクルの早さの理由>
先代モデルのXは、ゴルフの歴史上の中でも非常にドラスティックなモデルチェンジが行われたました。エンジンは新開発の直噴に。ATも一気に6速となり、レーザー溶接やリアのマルチリンクサス、電動パワステ、その他非常にコストのかかる多くの機能や装備を、VWはこのゴルフでいち早く採用。よりクラスレス感を強め、同セグメントでの存在感をさらに上げるという意気込みが非常にヒシヒシと伝わってきたのがゴルフXでした。
しかしながら、実はゴルフV登場直後、本国ドイツで売り上げがイマイチ伸びない結果に。そこでVWは、現地ではかなり高価なオプション扱いとなるエアコンを、無償装着できるキャンペーンを実施。また、好評だったワゴンを廃止してゴルフプラスを登場させ、新たなクロスオーバー層の開拓も目論みましたが、結果はハズレ。急遽モデルサイクル後半にワゴンモデルであるヴァリアントを登場させるというドタバタ劇も。
そんな中、さらなる驚きだったのが、モデルチェンジでエンジンとミッションを一新したと思えば、モデルサイクル途中でもう1度再び新型のエンジンとトランスミッションにシフト! エンジンはスーパーチェージャーとターボを組み合わせたTSIを始めとして、排気量を下げた過給エンジンを搭載して性能アップ&燃費改善。
トランスミッションは今ではすっかりお馴染みとなったDSGを搭載。このDSGも最初は湿式クラッチの6速タイプだったものが、モデル末期ではクラッチは乾式に、ギアもローパワー対応のDSGは7速になるなど、メインの主力車種に最先端かつ最良の技術をどんどん惜しみなく投入していきました。
常に商品力を失わない改良が続いたおかげで、ゴルフXは全世界的に無事にヒットを飛ばす結果に。しかしながら、もともとコストを惜しみなくつぎ込んだ1台であり、生産台数の割に利益は大きく伸びず。採算性という観点では、いくらたくさん売れても、会社への貢献度で言えばゴルフXは決して孝行息子というわけではありませんでした。そういった背景を知ると、Yへのバトンタッチが大幅に前倒しされた理由も、よく分かります。
そんな中登場したのがゴルフYです。モデルチェンジ最大の目的は「生産性の向上と効率化」。そう言ってしまえば少しネガティブにとらえてしまいそうになりますが、そこはVWの看板車種。そのような安直さはほとんど感じられない仕上がりとなっていました。
前置きが少し長くなりましたが、具体的にYの紹介を始めていきます。
<新たなVWのスタイリングモチーフ>
まずエクステリア。どこからどう見てもゴルフだと瞬時に分かるそのデザインは、完全なるキープコンセプト。全長はXより+5mmの4210mm、全幅は+30mmの1790mm、全高は−35mmの1485mm。ゴルフもついに1800mm寸前となってしまいましたが、これはドアノブ位置で全幅が測られているため、実質的にはXとほぼ変わっておらず。
35mm下げられた全高は今後他の車種へも影響するファクターとなるかもしれません。もっとも、このセグメントもこれ以上の拡大化は絶対に避けてほしいところ。そう考えると、このクラスのベンチマークであるゴルフが、なんとかVと「ほぼ」同サイズに収まったというのは評価できる点です。
大きな違いと言えば、Xのモデル途中でも採用され、瞬く間にVW内の多くの車種に広がったフェイスアイコンの「ワッペン・グリル」が廃止されたこと。これはもちろん、同グループ内のアウディとの共通のイメージを持たせるという当初の方針が、VW独自のデザインモチーフを持たせるという方向へ変更したことが影響しています。シロッコからこのゴルフへと受け継がれるこのスッキリかつシャープなフロントマスクは、今後のVWラインナップにどんどん広がっていくことでしょう。
サイド、リアは大きな変更はなし。サイドモールがなくなったのは「スッキリした」と捉えるか、「ややのっぺりした印象が強まった」と判断するかは評価が分かれそうなところ。リアデザインも非常にプレーンで、大きな特徴はありません。おもしろいのは、指定ナビにセットオプションされるリアビューカメラ。これがVWのエンブレム内に非常にキレイに上手く収まっており、視認性の良さと通常使わない時の見た目の変化のなさはアイデア賞モノ。
また今回のYから、リアの中央部分を除いてバンパーもフルカラードタイプに。このあたりは欧州のデザインが大きく日本のマーケットに影響を受けているところかもしれません。ちなみに、ルーフパネル部分はXから受け継ぐ同一品。こういったあたり、先述の「生産効率と採算性の向上」という部分が垣間見えるところです。
デザインを指揮したのは、あの名作アルファロメオ156(前期型)のデザインを担当したワァルター・デ・シルヴァ。一見両車似ても似つかぬように見えるものの、ヘッドライト内側の切れ込みの仕方に共通点が見られるのが、このゴルフYが彼の仕事であると見受けられるエッセンス。また、W時代からはかなり改善されたものの、まだ少し大きさ的に難があった視認性の悪い小さめのドアミラーが、Yでようやく納得できる大きさになったのは○。
<インテリアもキープコンセプト>
インテリアは、こちらも先代から完全なキープコンセプト。表面上の細かいデザインや材質は変わっているものの、基本的なレイアウトは全くと言っていいほど変わっておらず。しかしながら、基本的な操作性のしやすさと質感の高さは相変わらずで、ややダッシュボードの表面の質感やエアコン吹き出し口付近などに粗さが見られたものの、これは個体差や初期導入モデルの影響もあるので一概に不満点とは言えません。今回のYのアピールポイントはずばり「静粛性」。遮音フィルムを挟み込んだフロンドガラス、サイドウインドーも厚みを増しており、シールも二重化。目に見えない部分に大きく力を入れています。
ステアリングはパサートCCにも採用されるタイプ。グリップの太さ、革の質感、ステッチ、どれをとっても非常によく仕立てられたもので、このステアリングだけでもインテリアの雰囲気と質感をグッと高めてくれます。またメーターの夜間照明がブルーからホワイトへと変更されたのは、以前違和感を感じていた人には朗報かもしれません。
残念なのは、これはXの時にも感じていたシフト付近のフィーリング。せっかく素晴らしいDSGの素早い変速のスムーズさに比べて、いまいちカチッとしない節度感のなさは改善されず。その他との操作系のフィーリングともマッチしていないのも余計粗さが目立つ要因かもしれません。また、ドアノブ付近の傾斜部分に配置されたパワーウインドースイッチは、操作する際には少し慣れが必要となる位置かもしれません。
<純ガソリンエンジン車最強のコンビ>
パワートレーンは、当初ラインナップに揃う2車種はどちらも1.4TSIにDSGの組み合わせ。「コンフォートライン」はシングルチャージャーの122ps仕様、「ハイライン」はターボ&スーパーチャージャーの160仕様で、いずれも最新の7速DSG。両車ともモード燃費は16km/Lを超えており、エコと走りのポテンシャルを高度に組み合わせた、非常にハイポテンシャルな最強タッグと言えるでしょう。
足周りはフロントはストラット、リアはマルチリンク。プラットフォームはもちろんのこと、サスペンションやブッシュ類、アライメントやアーム形状など全てVからそのまま継承。これはいかにXがモデル末期ながらも高い完成度とクラストップレベルの実力を誇っていた裏返しとも言えるでしょう。
注目の電子制御ダンパーのDCCは当初のところは日本仕様に採用されていません。タイヤサイズはコンフォートラインが205/55R16、ハイラインには225/45R17。どちらのサイズでも最小回転半径が5.0mに抑えられているのは○。
価格は、「TSIコンフォートライン」が275万円、「TSIハイライン」が312万円。装備の違いはあるとはいえ、基本的にはフル装備。9エアバックやESPも当然標準装備されています。
おそらくいずれは、2Lターボを搭載したGTI、さらにはポロに搭載予定の1.2LTSIターボエンジン&DSGを組み合わせたエントリーモデルも用意されるでしょう。またドイツ本国で先日発表された「もう1つのGTI」であるディーゼルエンジンを搭載したスポーティグレード「GTD」などの導入も願いたいところです。
スタイリングとインテリアに若干変化は見られるものの、エンジン、足回りなどは全て基本的にキープコンセプト。それだけに、「今すぐにYが欲しい!」という明確な理由はすぐに見出すことはできません。しかしながら、さすが完成度の高さは折り紙付き。
ハイブリッドやディーゼル以外のガソリンエンジン車では、走りのポテンシャルとエコ性能のバランスはおそらく現状世界一と言えるでしょう。Xが2回フルモデルチェンジしたと思えるほど大きな進化を遂げたと思えば、ビックマイナーチェンジしただけ?というような意地悪な声も無意味でしょう。
国内でのライバルは、見た目は大きく異なるものの、5月発売予定のプリウス……? G以上の上級グレードだとちょうど価格もバッティングしてきます。とはいえ、走りの性能ではゴルフのほうに一日以上の差が。Yの進化は、一度また試乗する機会をもって、その進化を改めて感じてきたいと思います。
<レポート:岩田和馬>
標準のようです。
ゴルフの全高はXもYも1485mmで変わりません。シャークフィンアンテナまで日本では全高と見なされるので。Yではこのアンテナは廃止となり、純正カーナビを選ぶとアンテナがついて、全高が1520mmに戻ります(笑)正式発表日前の四月八日にヤフーにゴルフYの試乗記が掲載されていたのには驚きました。
しかしながらこれといった大きな進化はなく、どこのメーカーもカタログ数値の向上に腐心するばかり。本当に日本的発想というか進化に期待できないのはやむを得ないですね。
対照的にVWのクルマ進化の著しさには何かもう国産メーカーが追い付けないくらいの差が開いたようにも感じます。
基幹技術のレーザー溶接ボディにマルチリンクサス、デュアルクラッチATに小型直噴エンジンとこれら全てをモジュール化した上でグループブランド別に味付けを変えて進化させていく。VWグループが本気でクルマ作りをした結果ということなんでしょうね。ドイツ本国での本命はTDI (直噴ターボディーゼル)ということで既存のガソリン技術をとことん突き詰めて次はブルーモーション(ハイブリッドや電気自動車)にもっていくというところでしょうか!?
先の長いテーマですがグループの方向性が明確にクルマに現れていることがスゴイと思います。がんばれ国産メーカー!!
試乗する時間は無かったのですが、室内はXより大分質感が向上した様に感じます。
一番感動したのはドアの開閉音。
前車XGTI、現在トゥーランTSIコンフォートラインの乗ってますが、明らかに違います。
まるで高級車の様な音でした。
今度は試乗しに行くつもりです!
おはぎさん>
車高の件は、アンテナだったんですね。失礼しました。
Xで十分、その意見は確かに分かります。
モデル末期の熟成にしろ、パワートレーンの充実にしろ、旧型モデルが大幅値引き、なら相当魅力的ですね。
スタイリングの良さと静粛性などの質感アップ、が個人個人の購入されるユーザーの方のポイントになると思います。
タイヤサイズについては、おそらく後々に
新型ポロに搭載予定の1.2Lターボ&7速DSGが「トレンドライン」としておそらくゴルフに搭載されると思うので、その際に15インチサイズを標準設定してくるのかもしれませんね。
トレビンさん>
初代プリウス登場から、ハイブリッドの進化は恐ろしく進んでいます。日本的発想の進化について「これといった大きな進化はない」とは私個人的には到底そのようには全く思えません。
もちろん、ゴルフに代表される欧州車勢の進化と進歩に関してはその凄まじさというのは物凄く、実感しっぱなしです。しかしながら、そんな進化の中に、「日本車の影響」というものは間違いなく明確にハッキリと表れています。静粛性をアピールするゴルフYは、間違いなくその典型。20世紀的クルマ作りの価値観を極めてはいますが、日本車がそこにただ追いつけ追い越せという次元の話では、もうなくなっているのではないでしょうか。欧州万歳ではない、そこにかすかに見える「ブレ」にも少し注目していかなくてはなりません。
話がそれましたが、日本メーカーはCVTに尽力し、欧州メーカーはどうやらこれからはツインクラッチに流れがきていますね。もちろん、ディーゼルに関しても。しかしながら、今や完全にハイブリッドにそっぽを向いていた欧州勢が今血眼になって開発を急いでいます。
もしそのレベルが追い付いてきたら…車作りのクオリティ感を日本車がどのような分野でアピールできるのか。そこにトレビンさんがおっしゃる危機感が露わになってくるかもしれません。どういう結果であれ、楽しみにしていきたいですね。
なおさん>
ありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いします。
ぐちさん>
もともと、ドアの開閉音のガシッとした感じはVWに限らず欧州車の魅力の1つでしたが、今度のYは室内の静粛性・密閉性が向上したためか、シートに座ってドアを閉めると、本当に気持ちがいい音がしますね。
このクオリティが新型ポロにも降りてくるとなると、さすが!の一言に尽きます。また試乗された際の印象などありましたら、コメントいただけると幸いです。
いつも楽しく読ませて頂いています。
当方Macなのですが、「ゴルフ6」の「6」に相当する文字が変です。機種依存文字を使用されていないでしょうか?
なるべく普通の数字で表記された方が良いと思います。
おせっかい失礼しました。
いつもご観覧ありがとうございます。
文字については、まさにご指摘通りでした。
今後は表記に注意したいと思います。申し訳ありませんでした。
今後も応援よろしくお願いします。またお気軽にコメントいて頂ければ幸いです。