新しいネーミングになってから2代目。初代モデルはなかなか斬新な試みがなされていましたが、販売自体は2Lを廃止した影響もあり、またゼロクラウンの大幅な若返りもあってか、販売的にはあまりいい結果を残せませんでした。

スタイルを見ても分かる通り、新型は完全なるキープコンセプト。エンジン・シャシーもキャリーオーバーで、熟成のモデルチェンジと言えるでしょう。目新しい新機能も特になし。プリウスやレクサスHS、SAIなどでハイブリッド攻勢を強めつつ、このようなコンベンショナルなFRセダンもきっちり用意できるあたりがトヨタの強み。
かつての兄弟3車種のバブル月産4万台時代からすれば、月産目標3000台というのはいささか寂しいものがありますが、時代の流れを考えれば順当な流れなのでしょう。そうは言っても、エコエコと叫ぶ時代にとらわれないユーザーは確実にまだまだ多数存在します。

フロントマスク、特にグリルのXのアピールポイントは相変わらず好みが大きく分かれそうではありますが、グッとエッジを強調したスタイリングはなかなかスポーティ。とりわけモデリスタの「ヴェルティガ」は、専用エアロやグリルなど純正よりハイレベルと言っても良さそうなまとまりを見せています。

また「デザインのためのデザイン」のような消化不良気味であったバンパーと一体式のマフラーが通常のオーバル形状に戻されたのは個人的には大賛成。できれば他のトヨタ車種も「そのクルマのデザインに見合うかどうか(例:クラウンマジェスタ)」を考えてから今一度検討していただきたいと思います。

インテリアの見栄えも上々。先代モデルは丸型のシフトパネルの形状や変な形のシフトノブ、助手席専用オーディオコントローラーなど、少し首を傾げる部分がありましたが、新型はオーソドックスにまとめられています。針がレッドで瞬時認識性の優れる自発光式メーターや、エアコン操作パネルのすっきりとしたまとまりなど良く出来ていますが、あえて最初に「見栄え」と書いたように、実際の質感はそこそこレベル。
確かにクラウンやレクサスと実際に直接比較すればところどころの安っぽさは否めませんが、ブーツ式で高級感たっぷりのシフトまわりの処理や、径やグリップの太さ、革の質やステッチなど大変良く気配りができている新形状のステアリングなど、直接手に触れる部分にしっかりと気を使っている印象で、この価格を考えれば期待十分以上でした。

新型の特徴は、モデル展開を「スタンダード」「スポーツ」「プレミアム」の3種類用意している点。またスポーツの一部グレード・プレミアムはエンジンも3.5Lとなったので、価格設定範囲はかなり広がりました。ちなみにこの3.5Lエンジン、クラウンの315ps仕様ではなく、レクサスISの318ps仕様となっているのも開発陣が意識したキャラクターを物語っている点と言えるでしょう。
しかし今回はあえて、2.5Lモデルに注目。2Lモデルがなくなった事はやはりこのクルマにしてはハンディが多く、またライバルであるティアナも6気筒エンジンながらいち早くレギュラーガソリン対応にしたこともあり、今回新型も燃費やランニングコストを考えて追従してきました。数値上エンジンパワー・トルクともに若干のダウンしているものの、203psもあれは十分。おそらく売れ筋となるであろう、そしてお勧めなのも、絶対に2.5Lです。

その印象は、実際に試乗してみるとさらに強くなります。今回試乗できたのは「減税特別仕様(?)」とも言える250Gリラックスエディションと、最上級の350Gプレミアム。パドルシフトや専用サスが組み合わされるSグレードは試す事ができませんでした。
まずは2.5Lから。タイアは16インチのヨコハマDNAdb。スタートしてまず感じるのは、その静粛性の高さ。マークXってこんなに静かやっけ?と改めて思うほど、これだけ乗っていれば「クラウンいらず」の印象を感じるほどでした。レギュラー対応化されたエンジンも街乗り領域では十分の性能で、アクセルをパッと開けば低速からレスポンス良く上までシュンと軽くスムーズに吹けてくれます。相変わらず抜群にスムーズな6速ATとのマッチングも極めて良好。
ハンドリングに関しては、まだ40kmほどしか走っていないド新車というハンデはあったものの、特にリアサスに起因する直進性とフラット感の欠如と電動パワステのフィーリングの2つが大幅に改善。電子制御も何もない素のサスペンションと16インチタイアの組み合わせは実にまとまりがよく、格段にナチュラルとなったステアフィールとも合わさって、走りのチグハグさが随分と解消された印象です。
この内容でVSCやサイドエアバックも標準となって、238万円スタート。装備充実で売れ筋となるであろうこのリラックスセレクションも269万円。いわゆる飛躍的改善が進んだ燃費性能や飛び道具的な装備は特に持ち合わせていませんが、これはこれでクルマの内容として考えれば実に魅力的。

3.5Lのプレミアムのほうも試乗し、こちらはこちらでトヨタエンジンの中でも屈指の出来である素晴らしいフィーリングのD−4SのV6エンジンに18インチタイアのしっかり感が特徴的ですが、ここまで必要な性能か…と問われれば微妙なところ。見栄えはいい18インチタイアは今回235幅とクラウンよりも幅広くなり、絶対的レベルではこちらのサスとタイアの組み合わせの乗り味も相当に煮詰められた印象でしたが、「らしさ」と「充実度」でいえばお勧めしたいのはやはり2.5Lのほう。プレミアムはナビを装着すると400万円オーバーの価格帯となるので、そうすれば他の車種も気になるクルマが増えてきます。

新型プリウスが衝撃的な価格で登場したのは記憶に新しいところですが、よくよく考えるとこのマークXの250G・FパッケージとプリウスのGはほぼ同価格帯。こうして見ると、トヨタの車種展開・価格戦略もなかなか面白く感じます。こちらは思いっきり20世紀的価値観に縛られたオーソドックスなセダンではありますが、今のエコエコな時代の雰囲気の中では、なかなかどうしてしっくりと落ち着く印象で、地味ながらもかなり実力派の1台でした。
レポート:岩田 和馬