試乗車は標準仕様。大きな違いはシートがファブリックとなるくらいで、それ以外はほぼフル装備と考えて問題なし。質感に関しては標準仕様でもほぼ文句なし。これで395万円ならISよりも一般ユーザーの心は掴みやすいでしょう。

エンジンは4気筒2.4Lにモーターの組み合わせ。車名の通り「2.4L+モーターで2.5L相当」という考えであり、やはり燃費優先のハイブリッドとしてはこちらが本質的。GS・LSやクラウンでは、もともと必要十分以上の性能をもつエンジンにモーターを組み合わせ、ハイブリッドに付属価値を求めた「パワーハイブリッド」。その強烈な加速には心惹かれる部分も少しありますが、やはり少し邪道でしょう。ゴルフは1.4Lターボ、メルセデスはEクラスに1.8Lエンジンターボを搭載するまでになっていることを考えると、ハイブリッドで闇雲に本質を見失うパワーウォーズに突入するのは少し危険。そういった面からも、今回このHSから方向転換してくれる事を願いたいところです。
サスペンションはフロントストラット、リアダブルウィッシュボーン。タイヤは標準・バージョンLが215/55R17のグッドイヤー、バージョンSが225/45R18のダンロップ。車のキャラクターを考えれば少しオーバーサイズ(特に幅)のような気もしなくはありませんが、車重は1600kgを超える重量級なのでこれくらいのキャパシティが必要となってくるのでしょう。ブレーキは前後ともにベンチレーテッド式ディスクブレーキ。
すでにお馴染みとなったレクサスのスタートメロディを聴きながらエンジンスタート。バッテリーの容量が少ない場合はエンジンが普通にかかりますが、エンジンのON・OFFに関わらず静粛性は非常に優れています。当然走行中も車内は極めて静か。モーターからエンジンへの変換もプリウス以上に分からないうちにスムーズに移行します。
エンジン・モーターのエネルギーモニターはメーター内とナビそれぞれで表示可能。ここで感じるのはプリウスとはシステム制御が大きく違う点。プリウスは基本的にできるだけモーター走行を続けようとし、バッテリーもガバッと使ってガバッと回生します。しかしこのHSは、動き出しこそモーターだけで発進するものの、バッテリー容量がフル充電状態に近くても、10〜20km/hほどですぐにエンジンが始動。エンジンだけで走っている時間も多く、EVモードを選択しない限りはエンジンがかかる時間が比較的長めです。
そのため街中をウロウロ動く程度だとプリウスはみるみるうちにバッテリーが減っていきますが(それだけモーター走行をしている証拠)、HSはほとんど変化なし。どちらかと言えばホンダ方式に近い、エンジン性能に対しモーターは細かくアシストするような、そんな印象に近いものです。
しかしながら、先述したように「2.5L相当」のポテンシャルとはいえ、アクセルを多めに開けた時の動力性能はかなりのもの。発進時にラフにアクセルを踏むとトルクステアが発生し、追い越しなどの加速力も非常に力強く感じられます。さすがにこの領域だと「いかにも4気筒」的なサウンドが発せられますが、他の速度域での静粛性が素晴らしいだけに、より目立って感じられてしまったのかもしれません。
ステアフィールは相変わらずロードインフォメーション性は薄めですが、電動パワステの違和感を上手く消し去っており、低速域から実にしっとりとした感触で好印象。ステアリングの上質な仕立てもそういった印象の良さに一役かっています。ステアレシオ自体はスローで、ノーズの動きもゆったりとした動きなので、スポーティな印象はほとんどありません。もちろん、そちらを求めるのであればISを、という事だと思うので、こういったセットアップには納得。
ブレーキのフィーリングは、特に停車寸前のフィーリングは随分と自然になったものの、ブレーキ踏み始めの減速Gの出方には少しまだ癖があります。もちろんこれに慣れてしまえば、ストロークを上手にコントロールしながら「緩く長く」というハイブリッドの独特のブレーキテクニックを実践する楽しみもあります。
少し気になったのが乗り心地。大きめの段差などの入力ではさほど気にならないものの、路面の細かな凹凸に対してダンピングが不足気味なのか、絶えずコツコツ微振動を伝えてきており、しなやかさが感じられないのが残念なところ。これはリアシートでも同様な印象でした。試乗車が300km程度しか走っていないド新車だった影響もあったかもしれませんが、おそらくはフロア剛性の振動の逃がし方に問題があるか、ダンパー縮み側の初期入力ストロークがまだ出きっていないか、聞き慣れないグッドイヤーのエクセレンスというタイア銘柄による影響か。

いずれにしてもこの部分に関しては、洗練さに欠け安っぽい印象を抱いてしまうので、できれば機会があればダンロップ18インチ+専用サスを装着するバージョンSも試したいところ。見た目とのバランスを考えれば難しいですが、標準・バージョンLには幅はそのままにもう1つハイトを上げて、16インチあたりを履かせてもよかったかもしれません。
また、最小回転半径が5.6mと最近の車にしてはかなり大きめ。実際Uターンなどでは思った以上にハンドルが切れません。特にこのHSはプログレ・ブレビスの代替えユーザーも多いようなので、そういった方は少し注意が必要です。
プリウス大人気の中、「レクサスブランドのハイブリッド専用車」としてのこのHS250hの登場のタイミングはまさにドンピシャ。もちろん多少は前後調整があったでしょうが、長期的な新車開発でこのタイミングでこの車を登場させる事ができる「時代の読み」という点では、改めてトヨタ・レクサスというメーカーの根本的な強さを明確に感じました。
見方を変えればプリウスほど燃費コンシャスでも先進的でもなく、インテリアの質感は◎なものの、無骨なエンジンルームや足回り付近の処理、スタビリティコントロールがVDIMではなくS−VSCになる点など、レクサスの中では若干Lフィネスにアウェイ的とも言える格差や煮詰めの甘さが散見される部分もありますが、むしろこの「狭間の中途半端さ」が、「ちょうどいい」と感じられる人も多いかもしれません。

個人的には「乗り味やドライビングプレジャー」という点では、同価格帯のISと比較してしまうと露骨な差は存在しますが、そういった事に比重をあまり置かない人にとってみれば、コンフォートな走りのキャラクター、圧倒的な静粛性とスムーズさ、広々としたリアシートとラゲッジスペースをもつHSにより魅力を感じる事でしょう。6000台近いバックオーダーを抱えているのがその証拠といえます。もちろん、エコ減税の効果もかなりあるかとは思いますが…。
クルマのキャラクターを考えれば国産ではティアナあたりがライバルとして考えられますが、いかんせん価格帯はHSのほうが完全に上。「ダウンサイジングしたいけども、プリウスはちょっとナ…」というクラウンクラスのユーザーあたりにも結構アピール度は高そうです。見方によってHSは「小さな高級車」というジャンルとも考えられるので、ちょうど代替え時期が迫るプログレ・ブレビスからの乗り換えユーザーが多いというのも頷けます。
輸入車で言えばこの価格帯だとメルセデスCクラス、BMW3シリーズ、アウディA4。VWパサートやシトロエンC5もライバルに入ってくるでしょう。インテリアを始めとする質感は、この中ではアウディA4が頑張っていますが、それと比べてもHSのほうが圧倒的。しかし走りの質感に関しては、HSがこのクラスの欧州車と同レベルに達しているとはまだまだ言えません。もちろんこれはレクサスブランド全体を通して言える共通項であり、考え方によっては「ハイブリッド」という強烈な個性的ユニットをもつHSが、むしろ一番レクサスとしてのブランド力とハッキリとした分かりやすい個性を持ち合わせている、と言ってもいいかもしれません。
気になるのは、冒頭にも書いたトヨタ「SAI」の存在。実際の仕上がりの差と価格差を比べてみなければなんとも言えませんが、プリウスの価格を考えれば、おそらく280〜320万円の間くらいでの登場となるでしょう。SAIが登場したその時に、HSの本当の評価が下される事と思います。もしかしてそれは同時に、今後のレクサスブランドの存在意義という大きな問題定義に発展する可能性も否めません。
<レポート:岩田 和馬>