注目の価格は298万円。これでも4ドアタイプR(FD2)よりもやや高めではありますが、ホンダとしてもなんとか300を切るべく相当な努力がなされたことでしょう。2010台の限定販売で、売り切れ次第販売終了。ボディカラーはミラノレッド、アラバスターシルバーメタリック、そしてタイプRお馴染みのチャンピオンシップホワイトの3色のみ。そして、当然6速MTの設定なのは言わずもがな。
TMSの会場に展示されていたのは、チャンピオンシップホワイト。ちなみにこの色をチョイスするとホイールも同色に塗られるのは、歴代タイプRの公式通り。他2色はシルバー塗装となります。
現行モデルのデビューは2005年。その前衛的かつシャープなスタイリングはまさに「新世代シビック」を名乗るに十分な魅力を備えていました。しかし…かつてのシビックのポジションは今ではすっかりフィットが担っており、その結果国内市場のシビックは4ドアセダンのみに。こちらもセダンとしては先進的なプロポーションを持ち合わせてはいましたが、いかんせんどう見てもオジサンくさい車となってしまった事は否めませんでした。
その後タイプRとハイブリッドの相反するキャラクターを1台のバリエーションで賄うという、世界的に見てもかなり貴重な存在となりましたが、シビックを名乗るのに相応しいかどうかと尋ねられると…。別に4ドアセダンに大きく抵抗があるわけではなく、純粋にそのセダンとしてのスタイリングにも大きく疑問が残っていました。アメリカ人好みに合わせたのかな、と思いきやあちらはあちらでもっとシャープなフロントフェイスを持つ専用デザイン。FD2型タイプRと圧倒的とも言える高い戦闘力をいくら持ち合わせているとは言え、どう考えてもそのスタイリングや「三角窓があるスポーツカー」などには、心惹かれる事はありませんでした。
そんな中欧州仕様のハッチバックのシビックは、国内からも導入待望論が湧きあがっていたのはご存知の通り。そして今回、デビューから4年、タイプR登場からは2年の時間を経て、台数限定という形で日本での販売がついに実現。いかんせん「遅すぎるわ!」とも思ったりもしますが、クルマ自体の洗練度や斬新さは、すでにモデル末期に突入している事、日本の街中でまだ見慣れていない事を差し引いても、十分魅力的に映ります。
すでに周知の事実ではありますが、この欧州シビックは先代フィットがベース。つまりセンタータンクレイアウトであり、リアサスはトーションビーム。「フィット・タイプR」だと揶揄する声もありますが、スポーツカーにはやはり色気や雰囲気、個性が大事。そういう事を考えても、また「シビックらしさ」ということを考えても、やはりこの欧州仕様ハッチバックのシビックこそが本流と考えて良いでしょう。
さて、実車に触れた印象を少しお伝えします。デザイン性と実用性のバランスに優れた特徴的なドアノブを握り、ドライバーズシートへ。いわゆる「RECAROシート」に「MOMOステアリング」というタイプRの代名詞とも言える逸品がすでに純正品へと変更を受けているのはセダンと同じ。シートは専用のバケットタイプで力は入れられていますが、せめてステアリングくらい専用品を奢ってもらいところですが、ここはコストの関係もあるのでしょう。
インテリアの質感は並レベル。しかしメーターの視認性は良く、セダンほどキャブフォワードが強調されていないので、ダッシュボードの無理な奥行き感も気になりません。ただ後付けでカーナビを装着する際には難儀しそうなインパネデザインではあります。凄いのはエクステリアと同様に、登場から4年経過しているにも関わらず古臭さがまったくなく、むしろ今でも十分に斬新で未来的に感じられるデザイン力の高さが伺えます。
シートに座ると、ポジションは少し高め。これは「センタータンクレイアウト」であるが故の宿命的ポジションではありますが、本音を言えばもう10〜20mmシートポジションをおとしたい…という気持ちは、オーナー自らが手を加えて改善するしかなさそうです。
そのかわりにフィットから譲り受けたのは、その実用性の高さ。リアシートはエマージェンシーではなく、むしろ積極的に広いと言える空間が確保されており、ヘッドレストも独立調整が可能。加えてラゲッジスペースは床下の容量を含めると485L!シートアレンジやフロアの低さ、開口部の大きさも文句なし。もちろん赤バッヂで実用性うんぬんを語るのは少しお門違いではありますが、これならばホットハッチとしてファミリーユースでの使用も全く不満なしでしょう。
もう1つ、果たしてこのシビックが赤バッヂをつける資格があるのかどうか。それはFD2のセダンとのキャラクター分け、そしてRの後につく「EURO」という言葉が物語っています。
エンジンはお馴染みのK20Aですが、最大出力は201psと、225psの国内から比較すればかなり控えめ。Rユーロはバランサーシャフトを装着し、若干ながらVTECのカムの切り替えポイントも下がっており、ピークパワーよりもフィーリング面を重視したセッティングをしているようです。ちなみに「タイプRユーロはレギュラー対応だから」との噂もありましたが、実際はプレミアムガス対応となっています。クロスレシオが図られた6速MTは、ストロークは若干長めに感じるものの、カチカチっとしたシフトフィーリングは○。
足回りは先述した通りフロントストラット・リアトーションビーム。注目したいのはこちらも「ユーロ」の名の目指すセッティングの狙いで、サーキットでは最高でも街中ではガッチガチなFD2の方向を目指してはいないということ。絶対的な戦闘力の高さではなく、いわば「ワインディングベスト」ともいうべきセッティングの方向性が見てとれます。タイプRシリーズで初めての事となるVSAの標準装備化もそれを物語る要因の1つ。
ダンパーは定評のあるザックス製。タイアサイズは同じ225/40R18ながら、セミ・スリックとも言うべきBSポテンザRE070ではなく、より全天候型のバランスを重視したポテンザRE050A。ブレーキもブレンボではなく、通常のスチールブレーキであるのはDC5とEP3の差別化方程式にのっとったものです。時代を考えれば15→17→18と順当ではありますが、走り好きとしてはその後のランニングコストも考えると、16〜17インチ程度でもよかったのでは…と感じるのは正直なところではあります。
ボディサイズは4ドアセダンよりもやや短く、幅広く、背高。そしてポイントとなるのは車重。見た目はセダンよりも明らかに軽快な印象ですが、実際は1320kgとFD2タイプRよりも60kg重くなっています。徹底的に軽量化が図られたセダンとは違い、防音材やVSAの標準化など、キャラクターの違いが明確に現れています。価格は高く、パワーで劣り、足回りで劣り、車重は重め…。ホンダファン、タイプR愛好家は、この事実に少し首を傾げたくなるかもしれません。
ようするにこれは、ホンダからのまた違ったタイプRの目指す方向性の提案が形になったものなのかもしれません。このRは「Racing」のRではなく、「Real」のR…今回あえてそう表現したくなる、それが今回のシビックタイプRユーロの新しさと魅力なのでは。
そういえば来年には、ハイブリッドスポーツのCR−Zが登場予定。しかしこちらがどうやら250万円近い価格になるとの噂。いくら燃費が良くても次世代の新たなるスポーツカーの提案だとしても、この魅力的なホットハッチが300万円以下だと考えると…?そういったことも含めて、CR−Zについては、また後々レポートしたいと思います。
正直な話、今回のTMSで個人的に「乗り逃げしたくなる!」と感じたのは、FT−86とロータスエリーゼ、そしてこのシビックタイプRユーロでした。すでに限定2010台が完売間近な事と、貧乏学生が今300万円を超える大金をすぐに用意できるわけない現実が、たまらなく悔しい…久々に喉から手が出るほど欲しい、そんな気持ちを抱いた1台でした。
レポート:岩田 和馬


